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上智大学アジア文化研究所
2009年度第1回「旅するアジア」講演会

「アルジェリア―今を旅する、昔を旅する―」報告

2009年4月25日(土)  上智大学

 上智大学アジア文化研究所主催による講演会シリーズ、「旅するアジア」の2009年度第1回企画として、「アルジェリア―今を旅する、昔を旅する―」が開催された。

 はじめに、会場を訪問したケトランジ駐日アルジェリア大使より挨拶があった。大使は、アルジェリア独立戦争の時代以来の日アの長い友情に言及し、両国関係の一層の発展を望むというメッセージを会場に送った。

 第1部「アルジェリアの歴史と文化」は、アルジェリアを多角的な観点から紹介した4つの連続講演からなる。

 第1の講師、大清水裕氏(日本学術振興会)による「古代史の謎を解き明かす―クレオパトラの娘セレーネの墓?」は、アルジェリア各地に見られる円形墳丘墓の遺跡を手がかりに、古代ローマ史の舞台としてのアルジェリアの姿を生き生きとよみがえらせた。日本ではあまり知られていない事実だが、古代アルジェリアはヌミディア王国、マウリタニア王国という現地系王朝が、ローマの支配下に入ることによって栄えた地域である。マウリタニア王であるユバ二世も、子供時代にローマで教育を受け、クレオパトラとアントニウスの娘であるセレーネと結婚した。華やかな王宮文化が首都イオス=カエサリア(現在のシェルシェル)に花開いた証として、セレーネの墓と呼ばれている墳墓が、アルジェの60キロ西方に今も残っている。

 第2の講演、渡邊祥子氏(東京大学大学院)「アルジェリア・ナショナリストの肖像:民族運動を創った3人」は、フランス統治下の1930年代におけるアルジェリア・ナショナリズム運動の形成を扱った。フランス的な近代主義者ファラハート・アッバース、イスラームとアラビア語の擁護者イブン・バーディース、フランスの移民労働運動の中で生まれた民族主義者メサーリー・ハーッジュという、全くタイプの異なる3人の指導者によって、アルジェリア・ナショナリズムの3つの主要な潮流が代表されていた。

 第3の講演、私市正年氏(上智大学)「中世史の不在と激動の現代史―アルジェリア歴史教育の問題を考える」は、アルジェリアの歴史教育問題と文化的アイデンティティの関係を問うものだ。私市氏は、アルジェリアの歴史教育が1954年以降の独立戦争の記述に集中し、古代や中世の豊かな歴史的遺産への言及が欠落している問題を指摘した上で、このような欠落が、アルジェリア人の文化的アイデンティティを脆弱し、アルジェリアを極端なアラブ化やイスラーム化に向かわせているのではないか、との問題提起を行った。アウグスティヌスがアルジェリア出身であることや、イブン・ハルドゥーンの『歴史序説』がアルジェリアで書かれたこと、ファーティマ朝の建設者がアルジェリアのベルベル人であることを、一般のアルジェリア人はほとんど知らない。忘れられた遺産を訪ね、歴史の記憶を掘り起こすことの必要。アルジェリアの「裏を旅する」旅のススメである。

 4人目の講師石浜裕子氏(一橋大学大学院)は、「絵画、映画を旅する―アルジェリアの光と影」として、ドラクロア、ルノワールといったいわゆる印象派の画家たちが、それぞれアルジェリアを訪問旅行した事実に着目する。アルジェリアを流れるまばゆい光に魅惑されたドラクロアは、「アルジェの女たち」(1834年)という傑作を生みだした。ここに西洋絵画における光の描写の革命を見、強い影響を受けたのがルノワールである。上野の国立西洋美術館にある「アルジェリア風のパリの女たち」は、ドラクロアの描くアルジェからルノワールがインスピレーションを受けて描かれたものである。
その後、アルジェリア独立戦争を扱った映画で、現在日本で公開中の『いのちの戦場』(フローラン=エミリオ・シリ監督、フランス、2007年)の紹介と、石浜氏による解説が行われた。

「アルジェリア―今を旅する、昔を旅する―」パネルディスカッション

 第2部・パネルディスカッション「アルジェリアと日本―汗・涙・笑顔の交流の架け橋」では、商社マン、研究者、日本人学校の小学生と、さまざまの立場でアルジェリアに滞在した6人のパネリストによる、六人六様のアルジェリア体験が語られた。

 吉成淳一氏(伊藤忠商事)は、アルズーの石油精製所に代表される巨大プラント建設工事を振り返りながら、氏の20年間のアルジェリア駐在生活と、現代の東西高速道路計画(2006年調印)に至る伊藤忠商事のアルジェリアでの事業を総括した。

 円福静雄氏(三井物産)は、ミーラの陶器工場での日ア交流の様子を伝えた。日本人レンガ職人がアルジェリア人労働者指導のためにやってきたが、言葉が通じない。そこで職人たちが最初にしたのは、仕事道具に関わるアラビア語と日本語の辞書を一から作ることだったという。

 小野照政氏(日揮)による報告は、社内映画『サハラに築く』の映像を見ながら、砂漠地方のプラント建設現場における日アの労働者の生活を生き生きと解説した。70年代のハシ・ルメルでは、6000人のアルジェリア人、2500人の日本人がともに働いていた。

 有吉由香氏(元アルジェ日本人学校小学生、現朝日新聞)は、80年代に小学生としてアルジェリアに住んだ体験から、当時のアルジェの日本人学校の様子や、修学旅行の思い出などを語った。1977年に創設された日本人学校は、1993年にアルジェリア内戦の激化のために閉校したが、校舎となった建物や運動場は今も残っている。

 渡邊祥子氏(元アルジェ大学留学生、現東京大学大学院)は、「日本文化@アルジェリア」と題して、2006-9年の留学期間に目にした日本のイメージを紹介した。漫画、ゲームなどの「オタク」文化はアルジェリアでも元気であり、日本人としてもアルジェリア側の関心に答える必要があるだろう。

 吉田敦氏(明治大学)は、アルジェリア経済、特にエネルギー部門の現状を概観し、世界経済危機以降のアルジェリア経済の課題を明らかにした。ガス部門においては、アルジェリアとヨーロッパ、サハラ以南を繋ぐパイプラインの計画が進められている。一方、再生可能エネルギーなどの新しい分野も注目されている。

 ビジネス、学問研究、草の根交流を通じて長い年月の間に交わされたアルジェリア人と日本人の付き合いは、それ自体が歴史的財産といえる。とりわけ、独立後の国家建設の最も重要な時期に、誠実に仕事に当たった多くの日本人技術者・労働者のことをアルジェリア人は忘れていない。

 当日は生憎の雨天候だったが、多くの参加者が会場を訪れた。70-80年代にアルジェリア駐在体験のある世代から、現役の学生までが集まり、にぎやかな再会と出会いの場となった。90年代のアルジェリア内戦の混乱がもたらした空白にもかかわらず、アルジェリアが依然として日本において幅広い世代の関心を呼ぶ地域であることが、改めて確認された。

 なお、この講演会は明石書店『アルジェリアを知るための62章』の出版記念行事でもあった。

「アルジェリア―今を旅する、昔を旅する―」会場風景

報告:渡邊祥子(東京大学大学院生)

「アルジェリア―今を旅する、昔を旅する―」プログラムはこちら