著者 渡辺 伸
2002年1月20日初版第1刷発行
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アルジェリア危機の10年―その終焉と再評価(批評)
長谷川善郎(伊藤忠商事)
1990年代、アルジェリアはイスラム原理主義のテロに揺れた。本書は「アルジェリア危機の10年は何であったのか」と問いかけ、その実態を克明に分析して解き明かしている。
著者はアラビストで、1996年8月から2001年3月までの4年半、駐アルジェリア大使を務められた渡辺伸氏。「日本−アルジェリア センター」の主宰者でもある。
アルジェリアは長く苦しい植民地独立闘争を闘い、1962年に独立を勝ちとるが、その後の長きに亘るFLN一党独裁体制の宿弊がイスラム原理主義を一挙に噴出させた。
アルジェリア近現代史の中でこの危機の10年を位置づけ、その中でイスラム原理主義の展開を鳥瞰し、それが時の流れと共にどのように変質していったか、体制側の対応、時の国際環境、他の地域におけるイスラム原理主義運動との関連について丹念に事実を追い求めている。
同時に、著者はアルジェリアに関する我が国メディアを含めた国際報道のゆがみを厳しく問題にしている。
また、著者がアルジェリア在勤時に折に触れて記述した現地情勢が挿話としてちりばめられており、親しみが持てて読みやすい。巻末には時節柄、「ビンラーデン・グループとアルジェリアのイスラム原理主義」と題した補記も付いており、アルジェリアからのアフガン義勇兵の実態について、ここでも著者の鋭い観察眼がある。
全巻を通じ、アルジェリアをよりよく理解し、その実像を外に知らせようとの著者の気持ちが伝わってくる。
アルジェリアについての我が国での最初の本格的書き物として、今を去る30年前、植民地独立闘争の苦闘を著した「アルジェリア革命―解放の歴史」(刀江書院 1972年 淡徳三郎著)が出版され、好評を博した。歴史は連続であり、本書「アルジェリア危機の10年―その終焉と再評価」はその後のこの国の歴史を見事に継承している。
アルジェリア研究者のみならず、中東研究者にも是非ご一読をお勧めしたい一冊である。