2002年11月25日
伊藤忠商事アルジェ事務所
所長 高橋一夫
12月18-19日に1993年以来の第4回日本アルジェリア合同経済委員会が開催されることになったアルジェリアは、90年代のイスラム過激派テロによる混乱の時代から回復期を経て、今や新たな発展の時代に入り、日本としても改めて注目すべき時を迎えている。
11月10日付けの現地各新聞(El Moudjahid/El Watan/Libertesその他)はフランスCofaceのアルジェリアの与信格付け改善を報じた。Cofaceは世界140国をA1からA4の投資適格国と、B/C/Dの投機的リスクのある国とに分類しているが、テロの時代を通じて今までも「B」であったアルジェリアを「A4」に格上げし、ロシア・アルゼンチンより上位に位置付けた。
また各紙は、約1ヶ月前にアルジェリアを訪問した米輸銀のBosco国際貿易局長は、アルジェリアとの取引を希望する米企業に対して、米政府及び信用保険当局はアルジェリアの政治リスクについても引受ける用意のある旨を表明し、ハイドロカーボン分野以外での米製品の輸出に5年間で50億ドルの融資を約束したと報じている。既に2.5億ドルについては、計画中のアルジェ近郊ITパークに建設予定の住宅/ホテルに対する融資が決定した。
日本も日本貿易保険NEXIはOECDの国別評価見直しを受けて、11月からアルジェリアの国格付けを1ランクアップした。
これら一連の評価は、明らかにアルジェリアのマクロ経済と治安をはじめとする政治リスクの改善を反映したものである。
マクロ経済の改善は、アルジェリア経済のキーファクターであるオイル価格の堅調により目覚しく、90年代初頭には10億ドル前後に低迷していた外貨準備高は2001年末で178億ドル、今年末には225億ドルに達する見込みで輸入額の20ヶ月分近くを確保、対外債務も当時の280億ドルから今年末には220億ドルに低減見込み、経済成長は当時のゼロもしくはマイナスからここ数年は着実にプラスに転じ今年度は5%強を見込み、当時20%を越えていたインフレもここ数年は一桁前半に抑制している等、著しい改善が認められる。
今年はまた選挙の年でもあった。5年任期の国民議会(下院)選挙は5月30日実施され、投票率は46%と前回97年選挙の60%を大きく下回ったものの、FLNが第一党に復帰して389名中199議席で単独過半数を獲得(与党系のRNDとあわせ248議席)、現政権が支持され、6月にベンフリス首相続投により第二次新内閣が組閣された。更に、10月10日の地方議会選挙では透明性の高い公正な選挙が実施され、5月の国民議会選挙を上回る51%の投票率の中、FLNがここでも第一党に復帰し、48県議会中43県議会で過半数を制するなど、アルジェリアにおける民主主義の定着とともに、ブーテフリカ大統領/ベンフリス首相による現政権の政治基盤の安定性が再確認された。
但し、両選挙ともカビール地方では選挙ボイコットが起きており、独自の文化を主張するベルベル人問題は独立以来の課題であり、若年層を中心とする国民の国内経済・社会面での不満への対応と共にアルジェリア政府の重要課題となっている。
これら課題への対応として、政府は2001年4月に雇用創出と国民生活向上を主眼としてインフラ整備や産業振興に3年間で総額70億ドルを投入する経済浮揚計画を発表。
失業率の改善/社会の安定を目指し、世界的に進行する新しい市場開放経済(グローバライゼーション)に遅れずにアルジェリアの経済発展を図るためには、外国からの直接投資が不可欠であり、その外国投資を継続して誘致していくために要請されるのが、銀行/エネルギー/鉱業/インフラを含む各分野に亘る改革推進による効率化・競争力強化であり、そのためにもまた外資導入が必要とアルジェリア政府は認識している。
つい最近成立した2003年度予算でも、平均オイル価格をOPECの変動目標22-28ドル/バーレルを下回る19ドルと堅実に想定した上で、余剰収入については国内景気刺激への重点配分により、経済浮揚計画の実現を目指している。
幸い、マクロ経済の改善を受けて、上述したフランス・アメリカ以外にもイタリア・スペイン他、既に欧米各国のみならず南米・アジアからの投資が少なからず表明されている。
つい最近の新聞でも、米国・アルジェリアビジネスカウンシルが12月9-13日にニューヨークに於いて、第1回米国・アルジェリアビジネスサミットと称して、米国政府与信枠のアルジェリア官民プロジェクトにおける利用方法の説明会を開催する案内が当地各紙に大きく報じられ、またイタリア経団連も12月上旬に訪アする予定となっている等、アルジェリアと各国の思惑は一致してアルジェリアの経済開発を支援する方向に向かっている。
日本でも、アルジェリアの近況は最近、(財)中東経済研究所から「アルジェリアにおける経済改革の現状と展望」と題して昨年度までの状況がまとめられ、その後11月にも「アルジェリアの民営化動向」としてレポートが発表されたが、是非とも日本も遅れることなくアルジェリアの現状を正しく認識して対応していきたい。
12月の第4回日ア合同経済委員会がそのきっかけとなることを切に願うものである。