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アルジェ−でのピアノリサイタル

平成14年6月14日
在アルジェリア日本大使 浦辺 彬

 4月25日19時より当地文化宮殿にて、国際交流基金の助成を得て在アルジェリア日本大使館と当国文化省との共催により若手邦人ピアニスト高雄有希氏によるピアノリサイタルが行われました。このリサイタルは大使館として企画した文化交流事業としては実に13年ぶりのものであり、また高雄氏の素晴らしい演奏がアルジェ−の市民の間でも話題になりました。概要下記の通りです。

1.リサイタルではムソルグスキーの「展覧会の絵」を演奏し終えると、アブー文化大臣他観客が起立して拍手を送り、アンコールの求めに応える形で「トロイメライ」、「ラマラゲーニャ」、最後に「さくらさくら」、を演奏した。多くの出席者から高雄有希氏による高度な技術に裏打ちされた表現力豊かな演奏に対する感嘆の声が聞かれた。なお、冒頭、高雄氏は即席のアラビア語にて挨拶の言葉を発し会場の雰囲気を和ませた後、ガジェフのアルジェリアのテーマによるトッカータを演奏したことが好評であった。また、当国の伝統音楽は隣国スペイン、アンダルシア地方の音楽との交流があり、「ラマラゲーニャ」(西語「マラガの女」よく知られている歌謡曲)はレセプション中にも話題になる程の喝采をあびた。リサイタル後、文化宮殿に隣接する文化省1階のテラスからアルジェ湾を見下ろす眺望の良い「大統領の間」でレセプションを行った。高雄氏の入場後すぐに、サインを求める観客により高雄氏周辺に人だかりが出来、高雄氏は順次サインに応じたため飲み物を口にする時間もないほどであった。13年ぶりの文化行事であり当方として招待客のうちどの程度の出席者が得られるのか予想が立たなかったが概ね200名強が入場し、1階席はほぼ満席となった。

2.同リサイタルに先立ち、4月23日夕刻今次行事に協力を得た文化省、音楽学院及び邦人企業アルジェ所長の他G8大使、知日派アルジェリア人及び外務省関係者等を招き、日本大使館公邸にてミニ・リサイタルを実施した。このミニ・リサイタルは当日のみ借り上げた小型のグランドピアノを公邸に搬入しての演奏であったが、「同演奏はモレスク風(トルコ様式)の公邸サロンと不思議と調和して印象的であった」とコメントする向きが多かった。同日午後には、当地音楽学院主催により、当地音楽学院の教授及び生徒に対する演奏指導を行った。
  高雄氏による演奏披露の後、音楽学院生徒が演奏を行い右演奏に対する高雄氏の模範演奏、音楽学院生徒との即興での連弾を行い、音楽学院教授より譜面の暗記法、演奏前にリラックスする法、作品と作曲家との関係の捉え方等について熱心に質問があった。

3.当国はイスラム圏の国であるが、国立交響楽団が組織され定期演奏会を行っている等クラシック音楽愛好家が多い。今後ともクラシック音楽を通じた日本との文化活動は極めて有効であると思われた。既にイタリア文化センターはイタリアオペラを実施してきているが、日本大使館による本件リサイタルの後オーストリア、スウェーデンなど西ヨーロッパの国もクラシック音楽分野での文化活動を実施している。
  アルジェリア側は文化大臣を中心に、本件に関する日本側のイニシアティブを高く評価していた。また、スロバキア大統領の国賓としての当国訪問公式行事の機会に、ブーテフリカ大統領より私に対し、本件リサイタルの開催を歓迎する旨の発言があった。また、今次リサイタルの開催にあたり、アルジェ進出邦人企業からは、時宜を得た文化活動再開であるとして予想を上回る賛助を得た。初めての行事でもあり、文化大臣と私の連名にて招待状を作成し招待者のみ出席しうることとした。事前に多くの新聞にて大きく報道されたため入場券を求める電話が当館に多数あったが、原則として丁重にお断りせざるを得なかったのは残念であった。
  また、当地国営仏語ラジオ局第三チャンネルは、ニュース番組にて放送した。国営放送局(ENTV)から「外交交差点」(各国紹介番組)でも取上げられた。また、国営ラジオ局はリサイタルでの全演奏を録音し、数回にわたり全国に放送した。
  アルジェーの治安は著しく改善しているが、如何に高雄氏一行及び当日の会場の安全について、万全を期すかが、最も気掛かりな点であった。5月末の国民議会選挙を控えアルジェ県内でも爆弾テロ事件が発生しており「会場に爆弾を仕掛けた」とのいたずら電話等が懸念された。無事にリサイタル及びレセプションが終わった時は私も肩の荷がおりた気がした。当館より国家警察本部(DGSN)に対し警備依頼を行い、高雄氏一行の空港到着からSPS(特別警護隊)による身辺警護を受けた。また、当日の会場内警備についても事前検索を含め多大な協力を得た。

4.リサイタルは大使館の全員が準備にあたった。そもそもコンサート用のピアノが少ないため、手分けして本使及び館員が文化宮殿のピアノ及び借上げのピアノの下見に出かけた。借り上げのピアノの確保や調律師の手配、またピアノ用の椅子については当地に高さの調節が効くものが無いことが判明し、リサイタル当日にクッションを製作する等、文字通り「手作り」のリサイタルとなった。リハーサルのための文化宮殿の会場は数ヶ月前から予約していたにもかかわらず、突然観光展の開催により会場がリサイタル直前まで使用不可能となり、開演2時間前にピアノの搬入を実施するなどはらはらさせられる一幕もあった。当国には国営及び県営の大規模な劇場及び公会堂はあるが民間の音楽ホールは殆ど存在しない。また、10年を超えるテロのため長い間文化活動の施設はかなり放置されてきている。今後、現行施設の照明の修繕及び民間による音楽ホールの建設等、当国の文化活動に必要なインフラの改善が期待される。我が国からの文化無償協力はこの分野で重要な貢献をなしうるものと思われる。