渡辺 伸
日本―アルジェリア センター
(前駐アルジェリア大使)
(その1)
去る10月18日夕刻、ある中東研究機関の主催で「同時多発テロと国際社会の対応」とのテーマのもと、パネル・ディスカッションが行われた。パネリストは外務省関係財団の理事長をしている外務省OBと大学教授2名であった。
司会者のイントロダクションに続いて、外務省OB理事長が発言、「ブッシュ大統領はとにかく反テロ国際同盟を構築すべく、最大限の外交努力を行っている。アラブ諸国からの支持が特に大事で、シリア大統領他、かなりの独裁者であるアルジェリアのブーテフリカ大統領の支持までもうることになった」との趣旨述べた。
このパネルには時節柄関心が高く、会場は満席、300名くらいの出席者があった。私は一瞬、この理事長の発言により、「アルジェリアはブーテフリカ大統領による独裁国ということがこれだけの出席者の頭に入ったら問題だ」と思い、3人のパネリストが発言を終わり、ディスカッションの部に入ったときに真っ先に手を挙げて次のように発言した。
「本日の主題からは外れるのでパネリストから回答をもらう必要はないが、アルジェリアはブーテフリカの独裁国という発言には大いに異議があるので一言コメントさせていただきたい。(自己紹介として、私がこの3月までアルジェリアで大使をしていたことを述べ)アルジェリアではプレスの自由は100%、大統領批判が新聞に出ない日はない。プレスによる政府批判は先進国並みである。ブーテフリカを独裁者と見るのは適当でないと思う」
パネル・ディスカッション終了後、旧知で上司でもあった理事長に、「ブーテフリカを独裁者とおっしゃるならフランスのシラク大統領も独裁者ですよ」といったところ、「いや君、エコノミスト(英誌)にそう書いてあったのだよ」というのが彼の返事であった。
(その2)
米誌ニューズウィーク9月28日号に「彼らは何故アメリカを嫌うのか、イスラムと西側世界」という特集記事があった。その第4部に「アラブ世界」と題して、アラブ17カ国とイランのGDP、(世銀統計による)発展ランク、「市民的自由の存在程度」「プレスの自由度」等が図表で示されていた。
アルジェリアのところを見ると、「市民的自由の存在程度」は最低の7(最も少ない)の二つ下の5となっている。アルジェリアよりいいのがモロッコ、ジョルダンの4である。
「プレスの自由度」に関しては、アルジェリアは「ゼロ」、部分的に存在(partial)がジョルダン、モロッコ、クウェイトの3カ国であり、他の国は全てゼロでアルジェリアもそのグループに入っているということである。アラブ世界やマグレブ諸国を知るものとして、ジョルダンやクウェイトのプレスの自由がアルジェリア以上だとは思えないし、ましてやモロッコのそれがアルジェリア以上だとは大いに疑義のあるところであるい。言うまでもなく、ジョルダン、モロッコともアラブの中ではもっとも親米的、アメリカの(及び西側諸国一般からの)受けのいい国であり、「市民的自由の存在程度」「プレスの自由度」の双方においてもっともいい点を貰っている。また、クウェイトはアメリカからもっとも同情されている国である。
ニューズウィークですらこのような見方であり、それが権威ある評価として世界にばら撒かれるのであるから恐ろしいことである。
「プレスの自由度」など、1週間分の新聞を取り寄せてざっと目を通せばすぐわかることである。しかし、アルジェリアが決定的に不利なのは、旧宗主国フランス以上にいまだフランス語にどっぷりつかりこみ、フランス語のプレスしかなく、それが米・英等アングロサクソンの国で読まれることはまずないことである。アルジェリアの対外的イメージ改善のために、本国からの英語による情報発信を通じての広報活動の強化が強く望まれるところである。
(2001.11.18記)