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アルジェリア治安情勢(2004年)

吉田 敦
(明治大学大学院博士課程後期)

 2004年7月5日に開催された第42回アルジェリア独立記念式典でブーテフリカ大統領は、「テロの根絶はアルジェリアの民主化プロセスと発展の追及と強化に向けた前提条件である」と宣言した。(注1) 過去10年間以上にわたりアルジェリアを前例なき悲劇に陥れたイスラム原理主義によるテロは、現在終息しつつある。事実「アルジェリアの危機」は終焉し国内の治安情勢は確実に安定に向かっており、かつてのような大量殺戮テロ、都市部での無差別テロはみられなくなっている。

 こうした近年におけるテロの沈静化は、ブーテフリカ大統領によるテロリストの投降を求める国民和解法の発布(1999年7月)や政府軍による頻繁な掃討作戦の実施によるものが大きいが、なによりテロの暴力に屈せず、立ち向かい、戦い抜いているアルジェリア人民の勇気と平和を願う屹然たる覚悟があったといえる。

 だがアルジェリアのテロが完全に根絶したわけではなく、GSPC(Group Salafite pour la Prediction et le Combat)を中心とする民間人の標的を含む政府軍へのテロ攻撃は依然として断続的に発生している。2003年2月には32人の外国人旅行者がサハラ南部でGSPCとみられるテロリストに誘拐される事件が発生した。8月20日、最終的に人質全員が解放されたが、GSPCに多額の身代金を支払ったともいわれている。(注2)
外務省が発表している渡航情報(危険情報)では多くの県で「渡航の延期」、「是非を検討」といった勧告が発令されている。(注3) 基本的に都市部では厳重な警備対策がとられており安全は確保されているが、アルジェリアのテロが完全に根絶したわけではない。

 アルジェリアでのテロ犠牲者数は、2000年の2920人(民間人1103人、軍・治安維持部隊640人、テロリスト1177人)から2001年2238人(民間人769人、政府軍381人、テロリスト1088人)、2002年では1562人(民間人633人、政府軍278人、テロリスト651人)に減少している。2003年上半期では634人(民間人163人、政府軍190人、テロリスト282人)となった。(注4)

テロ関連死者数(2000〜2003年)

単位:人 2000年 2001年

2002年

2003年(上半期)
軍・治安維持部隊 640 381 278 190
市民 1103 769 633 163
テロリスト 1177 1088 651 282
合計 2920 2238 1562 634

出所:Quotidien d’Oran 2003.11.03


注:但しテロリストの死者数は除く。
出所:AP

 2003年以降の犠牲者数を月別にみてみれば、とくに2003年7月にテロは大きく減少し、過去最低の40人を記録し、以降、平均60人/前後で推移している。(注5) 

 最近ではとくにGSPCの犯行とみられるニセ検問、爆弾テロ、銃撃、強盗などが発生している。GSPCは、GIA(Group Islamique Arme)の分派としてハサン・ハッターブ(Hassan Hattab)が98年9月カビリ地方で創設した。GIAの過激化とAISの停戦宣告(1997年10月)で生じた「権力と武力の真空状態」を利用して勢力を拡大し、創設当時からジジュル、セティフ、テベッサ等を中心に活動している。南部で展開しているGIAの一部もGSPCの活動に対して賛同を表明しているといわれている。2001年、アルジェリの報道では、カビリ地方だけで1500人のGSPCテロリストが潜伏しているとされ、多くがマキと呼ばれる山岳部の起伏部、森林地帯に潜伏している。他のテロリストグループと比較した場合、GSPCは内部抗争も少なく組織的なテロを特徴とし、無差別テロによる武力行使に訴えることも少なく、標的の多くが軍部・政府関係者である。GSPCの資金源はきわめて多様で、(自発的)支援金、強奪、武器密輸などのほか、土地や商店なども経営している。また「密航組」と称し欧州各地(とくにベルギー、フランス、スペイン、イタリア、ロンドン)でGSPC系のテロリストが潜伏しており、ビンラディンのテロリストネットワークとのつながりも指摘されている。2000年12月、フランクフルト(Francfort)では4人のアルジェリア人がテロ準備の疑いで逮捕された。その2ヵ月後、多くのGSPC系活動拠点が摘発され、2001年4月4日にはミラノで化学兵器を用いたテロ計画を行っていたイスラミストグループが逮捕。彼らはGSPCとアルカイーダのメンバーで構成されていた。(注6)

 以下では2004年1月から5月にかけて発生したアルジェリア国内での主なテロ事件をまとめてみた。

アルジェリアのテロ事件(2004年1月〜5月)

日時 テロの形態 死亡者(負傷者) 地域
市民 軍人 テロリスト 都市名 ?
1/02 偽検問 GSPC 1人 ? ? ブーメルデス Baghlia-Sidi Daoud間
1/04 交戦 ? 1人 1人 ブーメルデス Tidjelabine
1/07 銃撃 1人 ? ? ? Sidi Fredj
1/12 交戦 1人 警官1人 1人 オラン Medina Djedida
1/13 掃討(5〜7人逮捕) ? ? 1人 アルジェ郊外 El Hamiz
1/14 爆弾テロ 1人(1人) ? ? ジジュル Djimla
1/18 爆弾テロ ? (警官2人) ? スキクダ Collo
1/20 掃討作戦 ? ? 1人 オラン Oued Tlelat
1/26 掃討 ? ? 3人 ムアスカル Fergoug
1/26 掃討 ? ? 2人 レリザヌ Rehamnia
1/26 掃討 ? ? 4人 タマンラセット南部 ?
1/27 銃撃 ? 3人 ? ティジウズ Mazer-Tigzirt間
1/27 ? ? ? 3人 モハンマディア西部 ?
1/28 掃討 ? ? 8人 ブーメルデス ?
1/31 テロリスト13人が降伏 ? ? ? インサラ ?
1月合計 33人(3人)
2/05 爆弾テロ ? 警官5人 ? ティジウズ Boughni
2/07 銃撃 ? 警官2人 ? アインデフラ Miliana
2/07 掃討 ? ? 2人 ラハダリア ?
2/08-10 掃討 ? 3人(10人以上) 9-10人(幹部1人) ブーメルデス Zemmouri-Sidi Daoud間
2/9 爆弾テロ ? 2人(7-10人) ? ティジウズ Mizrana(Mazer)
2/10 ? ? ? 1人 スキクダ Azzaba
2/10(深夜) カフェ襲撃 4人 ? ? ジジュル El Kennar
2/12 ? ? 7人(3人) ? ベジャイア西部 Tighremt
2/14 ? ? ? 3人 インサラ南部 ?
2/14 ? ? ? 3人 タマンラセット Ain Salah
2/16 ? ? ? 1人 トレムセン Beni Snous
2/17 ? ? 民兵1人 ? ブーメルデス Zmmouri
2/17 床屋 2人(2人) ? ? アインデフラ Djendel
2/20 ? ? 1人 ? ブーメルデス Legata
2/22 掃討作戦 ? ? 2人 ブーメルデス Rouiba
2/23 ? ? ? 1人 レリザヌ Ammi Moussa
2/24 爆弾テロ 1人(1人) ? ? Baghlia ?
2/25 ? 1人(2人) ? ? ? Oued Smar
2/26 ? ? ? 1人 レリザヌ Ammi Moussa
2/27 偽検問 ? 2人 ? Boudouaou Boukerdane
2/27 掃討 ? ? 1人 レリザヌ Ouled S’rour
2/28 斬殺 1人 ? ? スキクダ El Koudiat(Bouchtata)
3月合計 約57人(約28人)
3/06 ? ? (1人) 1人 バトナ南部 Tamsit(山岳部)
3/08 奇襲 ? 2人(4人) ? ティジウズ Tadmait-Sidi Ali Bounab間
3/08 ? ? ? 2人 ブーメルデス Ouled Haddadj
3/10 ? 1人 ? ? アルジェ ?
3/10 元テロリストの殺害 1人 ? ? アルジェ Beaulieu
3/10 掃討 ? ? 1人(4人) ブーメルデス Ghzerwal山
3/12 爆弾テロ ? 4人 3人 テベッサ ?
3/12 掃討 ? ? 2人 ケンシェラ Garet
3/12 カフェ(深夜) 2人 ? ? ブーメルデス Dellys
3/14 奇襲 ? 2人(6人) ? ラハダリア ?
3/14 ? ? ? 3人 スキクダ Collo(AinKechra)
3/16 奇襲 8人(1人) ? ? メデア El Fernane
3/08-16 掃討 ? ? 17人 東部(メデア) M’sila-Djelfa間
3/17 ? 1人 ? ? ジリュル El Aouana
3/17 爆弾テロ ? 1人 ? メデア Garrouaou
3/19 掃討 ? ? 3人 ケンシェラ Ouled Rechache
3/21 爆弾テロ 1人 ? ? アンナバ Ain Barbar
3/23 銀行強盗28000ユーロ (1人) 警官1人(1人) ? ティジウズ Azazga
3/24 強盗 1人 ? ? スキクダ Hamadi Krouma
3/24 ? ? ? 1人 ? Bordj Menaiel
3/24深夜 誘拐 1人殺害女性1人誘拐 ? ? レリザヌ Ouldja
3/26 奇襲 ? 1人(1人) ? ブーメルデス Baghlia
3/27 ? ? ? 1人(1人) ブイラ Ouled Bouchia
3/27 掃討 ? (2人) 4人 ジジュル Bordj Thar
3/31 掃討 ? ? 1人(1人) ジジュル Ouled Amiour
3/31 ? ? ? 1人 スキクダ Ain El Hammam
3月合計 67名(23名)
4/01 ? 1人 ? ? ブーメルデス Ouled Boudekham
4/02 掃討 ? ? 2人 ブーメルデス ?
上旬 掃討 ? ? 7人3人 ジジュル El Milia
4/11 ? 元警官1人 ? ? アルジェ Belcourt
4/11 掃討 ? ? 1人 オラン Bir El Djir
4/12 ? ? 2人(1人) ? サイダ Oued Fallit-Doum Doum間
4/13 奇襲:トラック輸送中 1人 (1人) ? Chlef Beni Bouateb
4/15 ? ? ? 1人 アルジェ中心部 ?
4/18 ? ? ? 1人 シディベルアッベス Oued Sfioun
4/18 地雷 ? 2人(7人) ? ブーメルデス ?
4/18 ? ? ? 2人 ? Bejaia-Adekar間
4/18 掃討 ? ? 2人 シディベルアッベス Dhaia
4/19 偽検問 3人 ? ? ティパザ Bourkika-Hameur El Ain間
4/19深夜 ? ? 警官1人 ? ブーメルデス Bordj Menaiel
4/20 ? ? ? 1人 レリザヌ Mendes
4/25 掃討 ? 3人(4人) 4人 ブーメルデス Baghlia-Sidi Daoud間
4/20- 掃討 ? ? 7人 ジジュル ?
4/26 ? 民兵4人 ? ? スキクダ Collo
4/26 誘拐後、死亡 3人 ? ? トレムセン Beni M’chir
4/27 ? ? ? 1人 レリザヌ Mendes
4/30 ? 2人 ? ? レリザヌ Ouldja
4/30 ? 農民4人 ? 2人 メデア Berrouaghia
4/30 遭遇戦 ? ? 2人 ラルバ ?
4/30 爆弾テロ(走行中) ? 2人(4人) ? ブイラ Chrea
4月合計65人(17人)
5/02深夜 英国大使館付近 ? 警官2人 ? アルジェ ?
5/02深夜 虐殺 農民(父母子4人) ? ? レリザヌ Sabonette
5/03 掃討 ? ? 2人 Djebel Medad Tissemsilt
5/04 ? ? ? 2人 ブーメルデス Beni Amrane
5/06 掃討 ? ? 1人(1人) ジジュル ?
5/09 掃討 ? ? 1人 ブーメルデス/ブイラ Keddara
5/17 爆弾テロ ? 2人(13人) ? セティフ Babors
5/19 爆弾テロ(掃討中) ? 1人(4人) ? トレムセン Beni Snous
5/21 爆弾テロ(走行中) ? 1人(4人) ? ティジウズ Tadmait
5/22 掃討 ? ? 1人 ティジウズ Sidi Ali Bounab
5/22 誘拐(タクシー運転手) 1人 ? ? ティアレット ?
5/23 軍車両6台が行方不明 ? ? ? イリジィ ?
5/26 ? 民兵1人 ? ? トレムセン ?
5/27 機銃掃射 1人 ? ? ティセムシルト ?
5/30深夜 奇襲 民兵2人 1人(11人) ? バトナ Theniet El Abed-El-Nawader間
5/31 ? ? ? 2人 ティジウズ Titmitine
5月合計25人(33人)
かっこ内は負傷者数

 テロリストを含む死者数を地域別にみてみると、大規模な軍による掃討作戦を除けば、ブーメルデス(市民4人、軍人8人、テロリスト33人)、ジジュル(市民6人、テロリスト23人)、ティジウズ(軍人14人、テロリスト3人)、レリザヌ(市民6人、テロリスト7人)が多い。大勢は軍との銃撃戦、警官や民兵を標的としたテロが中心であるが、ブーメルデスやジジュルでは深夜のカフェでのテロ(それぞれ3月12日、2月10日)やレリザヌでの農村での惨殺テロ(5月2日)といった市民を標的とした無差別テロも起こっている。アルジェやオランといった都市部での大きなテロは起こっていない。

アルジェリア地図(テロ事件発生都市)

注1 AFP, 4 juillet 2004.
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注2 国別定期報告「アルジェリア」2003年7〜9月、中東経済研究所
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注3 外務省の安全情報については以下を参照。
http://www.anzen.mofa.go.jp/info/info4.asp?id=91
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注4 Quotidien d’Oran, 3 novembre 2003.
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注5 92年から95年の約3年間では4万人以上の民間人が殺害された。
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注6 Dictionnaire Mondial de l’Islamiste, Plon, 2002, pp.218-222.
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