書評:中村 遥(上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科地域研究専攻) |
本書は、2012年に外交関係樹立50年を迎えた日本とアルジェリアの関係について、両国に様々な形でかかわる人々が執筆したものである。地理的には遠い両国ではあるが、日本とアルジェリアの交流が始まるのは、アルジェリア独立戦争時(1954―1962年)のことである。アルジェリアの独立戦争を指導したFLNが、東京に極東支部を開設するために訪日し、また日本の若者たちも、アルジェリアの独立闘争に共感し、支援活動をおこなった。多くの執筆者が言及しているように「独立」という国家の一大転換期に、日本はアルジェリアに関わっていたのである。そこから始まった半世紀における両国の交流が、書籍という形になったことは、これまでの、そしてこれからの友好関係発展において、意義深いものとなるのではないだろうか。
執筆に携わっているのは、政府関係者、企業関係者、研究者、芸術関係者など多岐にわたり、内容も、ビジネス、外交、学術から滞在中の思い出など幅広いものとなっている。
本書は、四章から構成されている。それぞれの章では、第一章:日・アルジェリア関係50年の概観、第二章:アルジェリア独立戦争時の、FLN極東部東京開設から始まる日・アルジェリアの外交関係の始まりと進展、第三章:石油などの地下天然資源や、自動車産業、インフラ整備などの経済産業の協力関係、第四章:両国の文化・学術交流である。
特に、アルジェリアと日本が、ビジネスにおいて築いてきた関係が描かれており、日本国内での認知度は低いものの、着実にアルジェリアと日本が交流を保ち続けてきたことがわかるであろう。アルジェリアは、石油、天然ガスなどの地下天然資源を有する国であるが、それ以外でも、自動車産業、道路建設などの分野でも経済関係が築かれている。余談ではあるが、筆者がアルジェリアを訪れた際も、町を走る日本車の多さには驚かされたし、アルジェリア人の日本車への評価は高かった。
経済関係以外でも、地震災害における両国の災害援助活動にも言及されており、両国相互の支援、災害対策の技術支援などでも交流がある。これは、多くの日本の方々も、地震が身近にあるという点で親近感をもつのではないだろうか。
また、アルジェリアと日本の学術交流も含めた文化交流活動も紹介されている。アルジェリアでの能・文楽の上演など、日本文化がアルジェリアでどのように受け入れられたか双方の視点で語られているのがおもしろい。研究分野では、歴史学などにおける両国の交流が記されている。一方で、依然、日本ではアルジェリアをフィールドとする研究者の数は多くない。多角的にアルジェリアを研究するということは、アルジェリアの豊かさや複雑さを知るということであり、両国の関係に還元されうるものである。相互理解のために、より両国の文化活動が発展することを願う。
最後に、本書のもう一つ特筆すべき点は、本書が日本語のみならず、フランス語、アラビア語の三か国語で出版されたことである(アルジェリア、カスバ出版)。つまり、アラビア語、フランス語での出版によって、アルジェリアの多くの人々が手に取れる機会を得たということである。本書は、いうなれば外からみた両国の在り方が描かれており、お互いを知ることと、さらには他国から見た自国の有様を知る機会にもなると思われる。日本からみたアルジェリア、アルジェリアからみた日本。こういったイメージや、先に述べた内容から、本書が両国の多くの方々の交流の動機となることも、本書の意義の一つであると思われる。
日本にFLNの極東支部が開設されたのは、半世紀以上前のことである。それを同時代に見てこなかった両国の若い世代も、ビジネス・学術分野を問わず、先人たちの築いてきた友好関係の上に、より新しく発展的に両国の関係を築いていくよう願い、本書の紹介を終えたいと思う。