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アルジェリア経済情勢
--経済改革の第3段階--

アルスラン・シカウィー
(Arslan Chikhaoui氏略歴)
1962年トレムセン生まれ。バークレイ大学政治,国際関係,経済学士。1982年―1990年アルジェリア向け世銀、USAID、ジョンズ・ホプキンズ大学,国連共同の住宅,農業農村開発、家族計画等援助プロジェクトの上級行政調整官。1994年、シンク・タンクTransactions Nord-Sud  を設立し、その代表。1999年ダボス会議において100人のGlobal Leaders for Tommorowの1人に選ばれる。1999年3月、外務省中堅指導者招待計画により訪日。


ここ10年間にわたりアルジェリアが取組んでいる市場経済・社会を構築するための巨大な改革は,もはや引き返すことのできない性格を持っており,改革自体誰も疑義をさしはさむ余地のないものである。 アルジェリア経済は,1998年の構造調整プログラム終了以降,壊滅的な状態に陥った。アルジェリアが実行した構造調整プログラムはマクロ経済の均衡のみを実現しようとするものであり、持続的な経済成長を実現するための目標および手段をどのようにして選定するかという問題は一切論議されなかった。かくして1998年以降,アルジェリア経済は出口のない悪循環の中に閉じ込められることになった。すなわち投資は減少したため雇用創出は行われず,企業の生産性は落ち込んだ。 企業の生産性が落ち込んだために企業の投入財需要も一層落ち込んだ。 要するにアルジェリア経済および再生産システムの総ては,企業活動の縮小,狭隘な市場,競争力を喪失した企業,現実から乖離した通貨政策に起因する混乱,国内資金の投機部門への移動,金融システムおよび銀行活動に不適合な財政政策によって機能麻痺状態に陥ったのである。 2000年度の経済成長率は3.6%を達成したが,これは主に石油・天然ガス部門により実現されたものである。またインフレ率は約5%,失業率は30.3%に達している。ここに挙げた数字から判断して,今後アルジェリア経済が約400万人の失業者を吸収するために必要とされている年平均6〜8%の成長を実現する可能性を秘めているとはいい難い。 今日、アルジェリア経済は投資不足に悩んでいるが,投資を誘引する力はない。というのは必要とされている投資を実現するための必要な手段が欠けているからである。投資に関する法規ならびに規定条項が定められておらず,インフラ(電信・電話通信網,それに付随するサービス等)の整備は行われていない。また行政改革も行われていないし,国営企業の民営化も,民間企業の国営企業の活動への参加も実現していない。 こうしたなかでアルジェリア経済が世界経済に統合されるならば,わが国の経済は世界経済に支配されることになるのではないか。アルジェリア経済の将来は,アルジェリア経済の構造的ともいえる硬直性と,経済構造を変革しようとする試みに対する根強い強力な抵抗に直面して危ういものとなっている。 こうした中で,膨大な国内資金が生産部門から投機的部門およびインフォーマル部門(地下経済)へ移行しており,今やアルジェリア経済を脅かすものとなりつつある。 1999年4月に行われた大統領選挙以降,国外からアルジェリアへの投資が待ち望まれているのに国内の投資は完全に流れを止め,堅牢な経済・行政システムの前でつまずいている。 ブーテフリカ大統領は,経済成長を加速化するため,2001年5月,3ヵ年計画を実行に移した。この計画は労働集約的な産業部門(建設,巨大な公共事業,水資源開発,農業部門)を育成することを狙っており,その目的は国内外の投資を実現し,国外から資金を動員することに置かれている。 またアルジェリア政府は今後4年間に70億ドルの資金を財政投融資として編成し,企業活動を支援する方策を打出している。この資金の大半は2001〜2002年に出費されることになっている。 政府による70億ドルもの投資が実現することにより経済は刺激され,年率5〜6%の経済成長を実現することは確実視される。とはいえ,高い経済成長率を実現するためには首尾一貫した政策が堅持されることが必要であり,経済活動および産業の再配置,投資環境の近代化が実現されなければならない。

マクロ経済レベルの問題とミクロ経済レベルの問題を解決するためには,現実から乖離した通貨・金融政策を改め,家計の貯蓄を推進することの可能な新たな財政メカニズムを構築しなければならない。石油・天然ガス以外の新たな富を創出して輸出を増大することは,石油・天然ガスのみに依存している経済から脱出するための至上の課題である。

国際経済関係について触れるならば,アルジェリアは2001年秋までにEUと協力協定に調印する意向である。EUとの協力協定調印後12年後にはEUの正式加盟国となるが,正式加盟するまでの12年間はアルジェリア国内に自由貿易圏を設立することになっている。

これから設立される自由貿易圏は世界の人々と共に平和と安定を共有することの可能な場所となる。こうした地政学的なプロジェクトは,EUとの政治的対話を深め,地域の安全を保障するものとなり,経済的・財政的パートナーシップを深め,社会的・文化的・人的交流を深化させるものとなる。

またアルジェリア政府は、2002年末までにWTO(世界貿易機構)に加盟する意向である。WTOへの加盟条件を整備するためアルジェリア政府は2001年度には補正予算を計上している。

現行の関税率を改め新たな関税率に改める準備が行われている。新関税率では一次産品の輸入関税率は5%、半製品は15%,完成品は35%となる。WTO加盟だけではなくアルジェリアはマグレブ地域統合作業にも取組んでいる。

アルジェリアは若い国であり,豊富な地下天然資源に恵まれているし,工業発展能力も秘めている。農業開発は未着手であるが限りない観光資源にも恵まれている。地理的にも重要な位置を占めている。

現在アルジェリア政府は重要な経済改革に着手しており,政治・経済システムは,経済の主導権の自由化と市場メカニズムの構築を目指して移行の途上に置かれている。この移行過程は誰しもが渇望する安定を取り戻すために必要とされる民主主義を打ち立てる過程でもある。

こうした目的を実現するためにアルジェリアは自国の人的・物的資源を総動員しているが,国際的な効率的パートナーシップも必要としている。持続的な経済成長を実現し,中小企業に対する投資が行われて雇用が創出されること,貿易相手国を多様化すること,これがアルジェリアが現在目指している目標である。

(文責・明治大学教授 福田邦夫)